この照らす日月の下は……
28
カガリとはメールを交換する約束をして別れた。きっと彼女とも仲良く出来るだろうとキラは思う。
ラウにはしばらく会えなくなるからと、思い切りかまわれた。そのせいでカナードがむくれたのは仕方がないことだろう。彼のことだ。そのうちまた月に押しかけてくるだろう。
だから、こちらに関しては何の問題もなかった。
むしろ楽しい日々だったと言える。
しかし、月に帰ってきてからは全く様子が変わった。
「……今日はパパとママとお約束があるから、一緒に帰れないよ」
キラがこういった瞬間、アスランがむっとした表情を作る。
「僕が『一緒に帰ろう』っていっているんだよ?」
そう言うと同時にキラの手首をつかむ。
「おばさまならまだお家にいるでしょう?」
だから一緒に帰るのだ、と彼の態度が告げている。しかし、それにうなずくわけにはいかない。
「ママはもうおでかけしているよ。だから、僕もそっちに行くの」
家には帰らないのだ、とそう続けた。
「何で?」
アスランの指に力がこもる。
「パパとママのお知り合いが来ているから。僕は学校があるし、パパもお仕事だから先にママが会いに行ったの」
それがどうかしたのか、とキラは聞き返す。
「僕のお家のことだもの。アスランに全部説明する必要はないよね?」
アスランだってお家のことは何も言わないでしょう、と付け加えた。
「そういうことだから、放して!」
少しきつめにそう言う。
「……そんなの、僕は知らない!」
だから、一緒に帰るのだ。彼はそう言い返してくる。
「どうして?」
キラにはアスランがどうしてそんなことを言い出したのかがわからない。
「僕とアスランは家族じゃないもの。それなのに、どうして勝手に僕の行動を制限するの?」
これは純粋な疑問だ。
「僕がキラを好きだからだ」
アスランはそれが『当然だ』と言うように言い返してくる。
「好きなら、その人のやりたいことを応援してあげるものでしょう?」
少なくとも自分のことを気にかけてくれている人々はそうするはずだ。
「アスランのお父さんは、だからレノアさんが月に来るのを『いいよ』って言ったんでしょう?」
違うの? とキラは首をかしげた。
「……そう、だけど……」
「なのに、アスランは好きな人の気持ちを大切にしてあげられないんだ」
キラの言葉にアスランは目を丸くする。
「だって、僕が好きなんだから、同じようにしてくれないと……」
そしてこうつぶやく。
「僕はアスランよりもパパとママの方が好きだもん」
それに対し、キラはこう言い返す。
「アスランはレノアさんやお父さんが嫌いなの?」
この言葉は予想していなかったのか。アスランは目を丸くしている。同時に彼の腕から力が抜けた。
即座にキラは彼の手を振り払う。
「ママとの約束に遅れるから、僕、もう行くね」
そしてそのまま駆け出す。
「キラ!」
我に返ったアスランが慌てて手を伸ばしてきた。だが、その手はキラに触れることはない。
「じゃぁね」
これで少しは嫌われただろうか。キラはそんなことまで考えてしまう。
アスランは別に嫌いではない。だが、こんな風にあれこれ束縛されると息苦しくなってしまうのだ。だから、少しは嫌われてもいいか、とキラは心の中でつぶやいていた。